
松坂大輔投手が右肘靭帯を痛めた理由
今夜は甲子園での阪神戦が雨天中止になったということで、先日いただいたリクエストに応えたいと思う。元ライオンズの投手で、現レッドソックス松坂大輔投手に関する記事だ。松坂投手は知っての通り、現在は右肘の靭帯損傷によりDL入りしている。今回のDL入りに関しては、ただ靭帯の損傷とだけ発表されており、さらなる詳細は我々ファンには分からない。そういう事情もあり今回は、筆者がパーソナルピッチングコーチという目線から、なぜ松坂投手は近年故障が多いのかを書き進めていこうと思う。松坂投手のフォームに関しては色々言われている。石毛宏典さんも「トップで左肩が上がり、右肩が下がっている」ことを指摘されている。これは石毛さんの仰る通り、身体にバネのある若い時なら通用するフォームだが、筋肉に柔軟性がなくなってくる30代の投手にとっては、決して良い投げ方であるとは言えない。だが松坂投手はこの投げ方にはこだわりを持っているのだろう。松坂投手ほど勉強熱心な投手であれば、この投げ方のメリット・デメリットは当然理解しているはずだ。デメリットを理解してなお採用するということは、松坂投手自身メリットに大きな魅力を見出しているのだと思う。
石毛さんのこの指摘が直接肘痛に関係しているかと問われれば、筆者は必ずしもそうではないと考えている。筆者が考える松坂投手の肘痛の原因は主に2つだ。1つはインステップ、もう1つは筋肉の大きさだ。
まずインステップについてだが、松坂投手は上げた左足をステップする際、つま先がホームプレートに対し真っ直ぐ向かず、やや右打席側に傾いている。このステップはボールに勢いを加えるためには有効だが、リリースしたあとのフォロースルーの可動域を狭めてしまうというデメリットがある。そしてプロ入り1年目の松坂投手と現在の松坂投手を比べると一目瞭然だが、筋肉の量がまるで違う。今は腕も強打者並みに太いし、大胸筋も投手とは思えないほど発達している。この太い腕に厚い胸板、これらもやはりフォロースルーの可動域を狭める大きな要因だ。そしてよくよく考えてみて欲しいのだが、プロ入り1年目の細い松坂投手と、現在の筋骨隆々の松坂投手とでは、最高球速にまったく変わりはない。つまりこれまでも何度か書いてきた通り、必要以上の筋肉は投手には必要なのだ。
さて、プロ入り1年目のフォロースルーと今のフォロースルーとでは、可動域の幅がまるで異なる。1年目は左腰にタッチできるほどしっかりとフォロースルーができているのだが、今は左の骨盤手前で止まってしまっている。しかもフォロースルーしている最中の手のひらが打者ではなく、自分の方を向いてしまっている。これが何を意味するのかは、ぜひ試してみてもらいたい。手のひらを自分の左腰に向けてフォロースルーの動作をすると、肘は曲がらないはずだ。逆に手のひらを打者方向に向けると、フォロースルーの方向に対し楽に肘が折れてくれる。
現在の松坂投手のようにフォロースルーで肘がロックされた状態になってしまうと、ボールを投げて余ったエネルギーが肘に停滞してしまい、その負荷は当然肘痛へと繋がる。先日涌井秀章投手が肘に違和感を覚えたのも、筆者はこれが原因だと見ている(西武HP、3月の涌井投手の壁紙の写真参照)。
フォロースルーでのこの肘の状態に加え、インステップと大きな筋肉による可動域の狭まり。これらがセットになってしまったことで、松坂投手の肘には過度なストレスが与えられてしまったというわけだ。今年のスプリングキャンプでは身体の調子は全体的には良いと話していただけに、今回のDLは残念で仕方がない。恐らくキャンプではなかった力みが、「今年こそは!」という思いから公式戦で出てしまったのだろう。
そして筆者はもう一点、松坂投手のピッチングモーションで気になる点がある。それは肘の高さだ。松坂投手はアマチュア時代からのスライダー投手であるため、年々肘が下がる傾向にある。それに加え、近年の松坂投手はボールをリリースする際、体幹がほとんど傾いていないのだ。筆者から見れば、今の松坂投手の投げ方はサイドスローにしか見えない(実際にはスリークォーター)。西武時代と比べると、それほど体幹の傾きがなくなり、肘の位置が不安定になってしまっている。これは2008年に右肩回旋筋腱板を痛めた原因にもなっているのではないだろうか。
体幹が一塁側に傾かなくなった原因は、恐らく股関節だろう。体幹の傾きは股関節の可動性と腹筋・背筋によって実現される。腹筋・背筋の強さには問題ないと思われるため、恐らく松坂投手自身が不安を抱いている股関節の影響なのだろう。だがその股関節も、インステップすることによりさらにロックしてしまう状態になっている。
もし筆者が松坂投手にアドバイスできる立場であるならば、まずインステップを諦めさせるだろう。インステップをストレートステップに変更すれば、股関節の可動性は高まり、フォロースルーの動きにも余裕が生まれる。そうすれば肘にかかるストレスも軽減させることができる。
今の松坂投手に必要なのは若い頃のような剛球ではなく、一年間フルに投げ続けられるだけのベストコンディションだ。松坂投手はレッドソックスに移籍して以来、5シーズン中4シーズンでDL入りをしている。まずはこの現状を打開しなくては、40歳まで現役で投げ続けることはできないだろう。
ちなみにインステップに関する補足だが、日本のような比較的柔らかい土質のマウンドならばそれほど問題にはならない。しかしメジャーのような粘土質のマウンドの場合、インステップは球威と引き換えにコントロールを乱すばかりではなく、足首と膝、股関節を痛める原因にもなりうる。松坂投手には、工藤公康投手の実働年数を越えて欲しいと筆者は願っている。しかしそのためにはインステップをストレートステップに変え、身体に負担の少ない投げ方にマイナーチェンジする必要があるのかもしれない。
今後松坂投手はセカンドオピニオンを受ける可能性があるらしいが、痛みを引き起こしている症状以上に、痛みを引き起こしたピッチングモーションの見直しを図ってもらいたい。右肘は今回だけではなく、西武時代にも何回か痛めている。肘痛は投げ方が悪い証拠とも言えるため、やはり松坂投手は今後なんらかの対応策を練らなければ、間違いなく現役生活を縮めてしまうことになるだろう。だが筆者はそうはなって欲しくない。松坂投手には日本人の代表として、まだまだアメリカで投げ続けて欲しい。だからこそ今回のDLをきっかけにし、身体に負担の少ないピッチングモーションにマイナーチェンジして、早期復活を果たしてもらいたいと切に願っている。
2011年05月23日 21:05