
2010/06/06 中日vs西武 3回戦

| 2:58 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | R | H | E | |
| 埼玉西武 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 2 | 0 | 5 | 1 | 9 | 12 | 0 | |
| 中日 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 1 |
中日vs埼玉西武3回戦(ナゴヤドーム:37,201人)
埼玉西武ライオンズ 2勝1敗0分
継投:○岸孝之(完封)
勝利投手:岸孝之 8勝3敗 2.63
ホームラン:中島裕之(9号2ラン)
盗塁:片岡易之(26)
【ゲームレビュー】
プロの投手には大きく分けて2種類のピッチャーが存在する。様々な変化球を投げて打者を幻惑させるタイプと、限られた球種の中でコンビネーションを上手く取っていくタイプだ。前者の代表が涌井秀章投手だとすれば、後者の代表は間違いなくこの試合で先発好投をした岸孝之投手だろう。岸投手の軸となる球種はストレート、チェンジアップ、カーブだ。ここにスライダー、ツーシーム、フォーク系が加わってくる。だが本人のコメントが真実であれば、フォークはほとんど球種からは外して考えても問題はないと思う。そしてツーシームに関しても1試合で1~2球の割合でしか投げないため、バッターは無視しても構わないだろう。またスライダーに関しては、年々割合が減ってきているように感じる。だいたい10~15球に1球投げるか投げないかくらいだろうか。こう考えると、やはり軸はストレート、チェンジアップ、カーブということになるのだろう。
軸となる球種が3つしかないというのは、プロとしては一見少ないようにも感じる。だがピッチャーに本来必要なのは球種の数ではない。球種の完成度だ。例えば球種を10種類持っていたとしても、それぞれの完成度が50%では何の意味もない。完成度50%の変化球であれば、プロの1軍でスタメンに名を連ねるバッターであれば、選択肢が10あったとしても簡単に打ち返してくるだろう。だからこそ50%の変化球を10個持つよりも、より完成度の高い変化球1つを持っていた方が武器として使えるのだ。だが稀に、涌井投手やダルビッシュ投手のように、多々ある球種すべてを勝負球として使える投手も存在する。
岸投手の軸となる球種は3つだ。ということはバッターは山を張れば、1/3の確率で当たる計算となる。だが単純にこの計算が成り立たないのが野球というスポーツなのだ。例えば岸投手のカーブを待って打席に入るとしよう。完全にカーブだけに山を張ったバッターは、ストレートにはまったくタイミングは合わない。それどころかピクリとも動かない。キャッチャーはその姿を決して見逃さない。初球の見送り方次第で、バッターが何を待っているのかを大体予測することができる。そしてこの能力に非常に長けているのが、細川捕手というわけだ。
バッターが何を狙っているかが分かれば、リードはとても簡単になる。カーブ1本に絞っているバッターに対しては、カーブで勝負するための道筋で配球を組み立てれば良い。そして1ボール2ストライク、もしくは平行カウントになったところでボールゾーンにカーブを投げれば、バッターは簡単に内野ゴロを打ってくれるだろう。球種に的を絞っているバッターは、追い込まれるとコースに限らず振ってくる可能性が高いためだ。
だがこの配球も、変化球の完成度が高いからこそできることなのだ。もし岸投手のカーブの完成度が50%であったなら、同じ状況でボールゾーンにカーブを投げてもバットを合わせられてしまうか、見送られてしまうだろう。だが岸投手のボールの完成度はどれも高い。ストレートでも、カーブでも、チェンジアップでも勝負していける。特に岸投手の場合はストレートとカーブの急速差が60km近くある。60kmの緩急を付けられたら、バッターは完全にタイミングを見失ってしまうだろう。
バッティングとは、タイミングを合わせる作業のことだ。逆にピッチングとはタイミングを崩すための作業だ。バッターのタイミングを崩すためには、岸投手のようにまったく同じフォームから色々な球速のボールを投げる必要がある。だが中には球種ごとにフォームが微妙に変わってしまう投手も存在する。そういう投手の場合、ボールをリリースする前からタイミングを合わせられているため、連打を浴びるケースが増える。だが岸投手のように、リリースしてからでないと球種の判別が難しい投手の場合、打者はそれだけ短い時間内においてタイミングを合わせなければならない。そしてこれは当然非常に難しい作業となる。
この試合、中日打線がフォアボールを選ぶこともできず、ヒットも2本しか放てず、岸投手に手も足も出なかったことには十分納得が行く。この試合の岸投手のボールの完成度であれば、どんなチームの打線であってもそう簡単に攻略することはできないだろう。
そして逆に、もし岸投手の軸となるボールがあと1~2個多かったならば、岸投手は今ほどの投手にはなっていなかった可能性が高い。それは、ボールの完成度が上がりにくいためだ。ピッチャーは投球練習をする際、様々なケースを想定して練習を行う。例えば今の岸投手であれば大雑把に見れば、ストレート後のカーブ、ストレート後のチェンジアップ、カーブ後のストレート、カーブ後のチェンジアップ、チェンジアップ後のストレート、チェンジアップ後のカーブという練習パターンが考えられる。パターンとしてはわずかに6種類だ。だがここにスライダーが加わるだけで、そのパターン数は一気に増えることになってしまう。そうすると1球1球に割ける時間も少なくなり、ボールの完成度はなかなか上がっては行かない。
やはり大切なのは球種の完成度だ。例えばヤンキースのリベラ投手は、カッター1種類しか投げていない。ストレートすら投げない。これは極端な例ではあるが、たった1種類の球種しかなかったとしても、完成度がずば抜けていればその1球種だけでバッターを打ち取ることも可能なのだ。投手のセオリーとしては、球種の多さよりもその質、球速よりも切れが重要だ。そしてその両方を持っているのが、岸投手というわけだ。こう考えていくと、今季岸投手が好投を続けていることにも納得が行くというものだ。


2010年06月08日 01:45 Tweet


