
好調投手陣を生かすのも殺すのも、捕手次第

2月1日と言えば、プロ野球選手にとっては正月ということになる。この日からいよいよ2010年の選手たちの戦いがスタートする。そして今年はそれぞれの選手が充実した自主トレ期間を過ごせたようで、投打ともに初日から勢いのある報告ばかりが飛び込んでくる。
まず最初に飛び込んできたのは石井一久投手の初日だった。普段は比較的スロースターターである石井投手だが、昨年が不甲斐ない数字だったという自覚があるだけに、今年は捕手を立たせたままながら、初日から71球の投げ込みを行った。そして昨年は全投球をセットから投げていたのを、今年はノーワインドアップに変えるというチャレンジも行っている。どうやら今年の石井投手には、チャレンジを行えるだけの余裕があるようだ。身体の状態も去年よりも良いらしい。
続いて飛び込んできたのは雄星投手の情報だった。今日はブルペン入りする予定はなかったらしいのだが、何と渡辺監督に自ら志願し、ブルペンで投げ込みを行ったようだ。まず捕手を立たせたまま72球を投げ、その後は捕手を座らせて86球。座らせた後はスライダーも織り交ぜ、合計158球。
雄星投手という大きな存在が加わったことで、今年のピッチングスタッフには例年以上の緊張感があるようだ。色々な情報をチェックしていても、明らかに調子の悪そうな投手の話はほとんど聞かれない。特に先発陣に関しては、キャンプインまでに限ればどの投手も万全であるようだ。
投手陣が良いとなってくると、やはりここで再度注目したいのは捕手だ。細川捕手と銀仁朗捕手の正捕手争いは、例年になく激しくなるだろう。だが筆者は、現時点ではまだ細川捕手が正捕手だと考えている。
銀仁朗捕手は、昨年は大きく飛躍した。前半戦はリード面においてなかなか信頼してもらえなかったのが、後半戦になると少しずつ投手に信頼されるリードができるようになっていった。しかしそれでも、銀仁朗捕手の場合はまだリードにキーが存在してしまう。キーとは「この状況はこの球」という方程式を打者に与えてしまうことを言う。エース涌井秀章投手ほどになれば、そのキーを嗅ぎ付けてサインに首を振ることもする。しかし経験の浅い1軍半の投手にそこまで求めるのは酷というもの。
反面細川捕手の場合は、そのキーがほとんど存在しない。細川捕手は打者を本当に細かく観察しているため、例えば1球目を投手が投げる前は「最終的にはスライダーで仕留めよう」という逆算があったとしても、打者が少しでもスライダーを狙っている素振りを見せると、スライダーを一切投げさせずに、スライダーで勝負させるリードにシフトしていく。
「スライダーを投げずに、スライダーで勝負する」と書くと、非常に分かりにくいと思う。もう少し解説をすると、スライダーを決め球として使う配球をして、スライダーを狙っているであろう打者にあえてスライダーを待たせておく。そしてスライダーを投げるべくポイントで、意表をついたインハイのストレートなどで勝負させるということが、「スライダーを投げずに、スライダーで勝負する」ということになる。
現代野球において、プロ・アマ問わずスライダーを投げられないピッチャーはまず存在しない。スライダーじゃないにしても、スラーブを投げたり、球速が速めのカーブを投げたりする。つまりスライダー系のボールは、球種が多くない投手と対戦する際、変化球に対してはそのボールに合わせておけば問題ないと思える球種なのだ。
細川捕手の場合は、そのスライダーを巧く使って配球を組み立てることができる。しかし銀仁朗捕手はまだそのリードができない。もちろん年齢差・経験差を考えれば当然のことではあるが、経験の差が大きい分、やはり正捕手争いでは細川捕手が2~3歩リードしていると筆者は感じている。
いくら投手陣の状態が良いとは言え、それを生かすも殺すも鍵を握っているのはキャッチャーだ。キャッチャーがいかに心地よくピッチャーにボールを投げさせられるか、これが勝利の鍵を握っている。
勝てるピッチャーというのは、キャッチャーからボールが返球された時にはすでに次に投げたいボールを決めている。そしてすでにその握りでボールを持っていたり、その握りをしやすいようにボールをグラブに収めてからキャッチャーのサインを覗く。そのためもしキャッチャーが明らかにその球種とは違うサインを出してくると、ピッチャーのリズムが狂ってしまうことも少なくはない。
だからこそ投手陣の状態が良い今年は特に、キャッチャーの存在が大きくなってくるのだ。渡辺監督は基本的には細川捕手と銀仁朗捕手を競わせるだろうが、よほどのことがない限りは、細川捕手を主戦扱いとして使おうと考えているはずだ。去年の開幕前にも渡辺監督は、細川捕手を正捕手として起用することをしっかり明言している。明言したということは、それだけ実力差があるということで、その差は消して1~2年の経験だけで縮まるものではない。
銀仁朗捕手には将来性があるし、細川捕手の次の正捕手は、ほぼ間違いなく銀仁朗捕手となるだろう。だが今現在のキャッチャーとしての能力を見比べると、やはり細川捕手の方が上だと言える。だが銀仁朗捕手は本当に幸せだと思う。今や捕手として球界ナンバー1の評価を得ている細川捕手を、毎試合身近で見ることができるのだから。3年後4年後、銀仁朗捕手がどれだけ素晴らしい捕手に成長しているか、ファンとしては非常に楽しみである。


2010年02月01日 15:16 Tweet


